令和8年7月1日より、障害者の雇用率が、一般企業において2.5%から2.7%に引き上げられます。
企業の人事労務管理において、障害者雇用の実務は単なる事務作業ではなく、高度なコンプライアンスとプライバシー保護が求められる領域です。
平成17年に通知された本ガイドラインでは、障害者雇用促進法に基づく適切な把握・確認の手順と、トラブルを未然に防ぐための留意点が記載されていますので、概要をご紹介したいと思います。
- はじめに:なぜこのガイドラインが必要なのか?
事業主が障害者の雇用状況を正確に把握することは法的義務ですが、同時に従業員の機微な個人情報を取り扱うことでもあります。以下の2点を念頭に置く必要があります。
- 雇用義務の達成と報告: 法定雇用率の達成状況報告(毎年6月1日現在)や障害者雇用納付金の申告、調整金・報奨金の申請のため、障害者情報の正確な把握が不可欠です。
- プライバシーへの配慮: 労働者の障害情報は極めて機微な個人情報です。本人の意に反して制度が適用されることがないよう、適切な取得手順が求められます。特に精神障害者は採用後に判明するケースも多いため、細心の注意が必要です。
【個人情報保護法との関係】
個人情報保護法上の「個人情報取扱事業者」の要件に関わらず、労働者の障害情報の重要性に鑑み、事業規模を問わずすべての事業主に、本ガイドラインに沿った適切な取扱いが強く期待されています。
- 事業主が実施すべき4つの主要業務
障害者雇用促進法に基づき、事業主が実施すべき業務を整理しました。なお、これらの重要事項を定める際は、あらかじめ労働組合等(過半数代表者を含む)への通知や協議を行い、決定後は従業員に周知することが望まれます。
| 業務内容 | 対象企業 | 実施時期 |
| 1. 障害者雇用状況の報告 | 従業員40人以上の企業(※注) | 毎年6月1日現在の状況を7月15日までに報告 |
| 2. 障害者雇用納付金の申告 | 従業員100人超の企業 | 翌年度の4月1日から5月15日まで |
| 3. 障害者雇用調整金・報奨金の申請 | 調整金:100人超
報奨金:100人以下 |
翌年度4月1日から、調整金は5月15日、報奨金は7月31日まで |
| 4. 書類の保存・備付け | 全事業主 | 事業所ごとに備え、対象者の退職・死亡・解雇の日から3年間保存 |
※注:令和8年7月1日以降は、38名以上
- 制度の対象となる障害者の範囲と確認書類
算定対象となる障害者の区分と、確認に必須となる書類は以下の通りです。
- 身体障害者: 身体障害者手帳等
- 知的障害者: 療育手帳(東京都の「愛の手帳」等)、または児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医若しくは障害者職業センター等による判定書
- 精神障害者: 精神障害者保健福祉手帳
【算定の特例(注釈)】
- 重度障害者: 1人を「2人分」としてカウントします(短時間労働者の場合は1人分)。
- 短時間労働者: 週20時間以上30時間未満の者は原則「5人分」です。ただし、精神障害者の短時間労働者は、1人分(10時間以上20時間未満の者は、0.5人分)として算定対象に含まれます。
- 適切な把握・確認のステップ
プライバシー保護のため、情報の取得は以下の手順に従って厳格に行う必要があります。
(1) 採用段階での確認
- 原則: 採用決定後に利用目的を明示し、同意を得て取得します。
- 例外: 障害者専用求人や特別な職業上の必要性がある場合に限り、目的を示した上で採用決定前に確認できます。
(2) 採用後(既存従業員)の確認
- 原則: 全従業員に対し、メールや掲示板等の一斉の呼びかけ(画一的な手段)で行います。
- 例外(個人を特定した照会): 本人が公的制度や社内支援策の活用を自発的に申し出た場合、その情報を根拠に照会できます。
- 重要: 特定個人への照会時は、単に聞くのではなく、「以前、〇〇の支援策を希望された経緯があるため、確認させていただきたい」といった照会の根拠(情報の出所)と理由を本人に明確に説明しなければなりません。
- 本人に対して必ず明示すべき事項
情報を取得・更新する際は、以下の項目をチェックリストとして本人に明示してください。
- 報告・申告等に用いるという利用目的
- 氏名、手帳番号、等級等の取得する個人情報の内容
- 原則として毎年度継続して利用することへの同意
- 等級変更や手帳返却時の速やかな申出依頼
- 精神障害者保健福祉手帳の有効期限等の定期的な更新確認
- 特例認定を受けている場合の親事業主への情報提供(該当する場合)
- 情報の更新や等級変更が生じた際の自発的な申出の推奨
- 厳守すべき「禁忌事項(やってはいけないこと)」
コンプライアンス違反は、プライバシー侵害の訴訟リスクだけでなく、個人情報保護法に基づく大臣からの勧告・命令、さらに命令違反時の罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となります。
- 利用目的の達成に必要のない情報の取得。
- 申告や手帳取得の強制・強要(産業医等の第三者を通じた強迫的勧誘も禁止)。
- 申告拒否や回答拒否を理由とした、解雇・降職・賃金引下げ等の不利益な取扱い。
- 正当な理由のない名指し照会。特に「風評・印象」「健康診断の結果」「企業内診療所の受診歴」「レセプト情報」を根拠に照会してはいけません。
- 産業医等の医療関係者による、本人の同意のない担当部署への情報提供。
- 情報の更新・安全管理と苦情処理
(1) 情報の更新と安全管理
- 保存措置:事業所ごとに対象となる労働者が障害者であることを明らかにする書類を備え付けることとともに、これを対象となる労働者が死亡、退職または解雇の日から3年間保管します。
- 更新: 確認頻度は必要最小限とし、精神障害者保健福祉手帳の有効期限(2年)に合わせた確認等が適切です。
- 安全管理: 他の一般人事情報とは明確に区別して保管し、管理者を限定。管理者には守秘義務を課し、適切な監督を行います。
- 他事利用の禁止: 取得した情報を、本人の同意なく健康管理や能力評価、給与査定に転用してはいけません。
(2) 苦情処理体制の整備
事業主は、障害者情報の取扱いに関する「苦情処理体制」を整備しなければなりません。
- 苦情処理の担当者を明確にし、手順を定めます。
- 必要に応じて産業医、保健師、衛生管理者と連携し、迅速かつ適切に対応できる体制を整えてください。
- 従業員へのメッセージ:支援策の周知
障害をオープンにしやすい環境づくりのため、以下のような会社の仕手の対応や、公的支援策、企業の姿勢の周知を行いましょう。
- 管理職や従業員の意識啓発:同じ職場で働く管理職や従業員が障害について正しく理解し、適切な配慮を行うことができるよう啓発や研修の実施。
- 公的支援: ジョブコーチ、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターの活用。
- 企業独自の配慮例: 通院のためのフレックス勤務、在宅勤務、休暇積立制度、駐車場の確保。
- こころのバリアフリー宣言: 精神障害への正しい理解を進める企業の決意を社内LAN等での発信。
本ガイドラインは、プライバシーを厳格に保護しつつ、適切なサポートを提供し、法令上の義務を果たすためのものです。透明性の高い手続きにより、すべての従業員が安心して能力を発揮できる職場を目指しましょう。